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環境に配慮した国内循環型リサイクルビジネス-山形化成工業社長のあゆみ-Vol.3

山形化成工業株式会社 代表取締役社長 後藤 拓也さん

経済学部 経済学科 1995年3月卒業(日本大学山形高等学校 出身)

2022/09/22

経済学部を1995年に卒業し、山形化成工業株式会社の代表取締役社長を務める後藤拓也さんにインタビューを行いました。Vol.3となる今回は、同社の事業内容やリサイクルへの取り組み、SDGsと深く関係する国内循環型社会への貢献についてご紹介します。

 

山形化成工業株式会社は、1966年(昭和41年)に発泡スチロールの製造・販売を主な事業として山形市で創業された企業です。発泡スチロールの特性を活かし、環境に配慮した国内循環型社会への貢献を目指すことを事業目標の一つにしています。その取り組みが、経済産業省が主催する「中小企業のカーボンニュートラルに向けた支援機関ネットワーク会議」で紹介されるなど、業界で注目を集めています。

学生時代のご経験を紹介したVol.1はこちら 就職後~社長就任までのご経験を紹介したVol.2はこちら

山形化成工業の柱となる5つの事業とその特徴

当社のビジネス一つひとつはそこまで大きくありませんが、以下の5つの事業を展開しています。

  •  1.発泡スチロールの成形加工販売 (保冷容器、緩衝材、盛土工法用ブロック)
  •  2.産業廃棄物処分業 (発泡スチロールのリサイクル)
  •  3.断熱建材の加工販売 (住宅用、非住宅用断熱材)
  •  4.包装資材の販売 (工業、農業、加工食品向け)
  •  5.特産品の販売 (さくらんぼ、漬物)

主に1から3について詳しく紹介します。

 

1.発泡スチロールの形成加工販売

創業時から続けており、当社事業の40%を占めます。発泡スチロールは、断熱、軽量、加工性に優れた素材です。農水産、工業、建設・土木などで幅広い用途があるだけでなく、高いリサイクル率を誇ることが特徴です。日本国内の発泡スチロールのリサイクル率は約90%で、現在も進化しています。弊社では主に保冷容器、緩衝材、土木資材などに使用する発泡スチロールの形成加工販売を行っています。

 

2.産業廃棄物処分業 (発泡スチロールのリサイクル)

スーパーマーケット、家電量販店等から使用済み発泡スチロールを収集して破砕後、押出機に投入し溶融してペレット※化します。当社では廃棄物を種類別(用途や色など)に分別し、ペレットに加工するところがポイントです。同じ発泡スチロールでも容器と緩衝剤は成分が違うため、丁寧に分類をすることで再生原料の品質が安定します。日本国内の大手断熱建材メーカーにも採用いただいています。

※ペレット…粒状になった合成樹脂 (プラスチック )のこと

山形化成工業株式会社 後藤 拓也 代表取締役社長

3.断熱建材の加工販売

既存ビジネスの組み合わせから生まれた事業です。未来にやさしい断熱材プレカットサービス「かしこい選択」という、ゴミを全く出さないことを目指した山形県内初のビジネスで、発泡プラスチック断熱材を工場でプレカットし、建築現場に納品するサービスです。お客様の手間を省き工期も短縮でき、無駄な仕入れや材料のロスがない(ロスはリサイクルする)ことが特長です。このようなビジネスモデルは同業他社にはなく、人材不足とSDGsなどの環境志向が加速する時代背景から生まれました。まだ発展途上ですが、長く続けることで存在感を高めていきたいと考えています。

発泡スチロールの緩衝材

SDGs、環境配慮への取り組みが注目を集め、複数メディアに掲載

1994年、発泡スチロール再資源化協会(現発泡スチロール協会)で、製品生産だけでなくリサイクルにも注力する取り組みが日本全国で始まりました。先代の社長であった父が、使用済み発泡スチロールのリサイクル事業への参入を決断しました。協会の支援を受けて設備を揃えたのが環境配慮型事業を始めたきっかけです。このことが評価され、2008年に山形県環境保全推進賞を受賞しました。

 

日本国内で発生した廃棄物は国内でリサイクルを完結させる「国内循環型リサイクル」が社会の持続に不可欠と考えています。先進国の廃棄物は、アジア方面へ輸出するリサイクルが多数派です。しかし、それらの国々の方針が変わることで流通が滞るリスクがあります。例えば、中国は汚れた廃プラスチックの輸入を禁止するなどの方針転換を図り、リサイクル業界は一時混乱しました。「販売はグローバルに、リサイクルはローカルで完結させる」ことこそ、今後の社会を持続させるのに重要な考え方だと思います。当社のリサイクル事業で生産した再生原料は、日本国内の品質に厳しい大手断熱建材メーカーで採用されることになり、毎年の売り上げは堅調に推移しています。

 

また、工場の省エネでコストダウンをしようと、2011年に一般財団法人省エネルギーセンターによる省エネルギー診断を受け、エネルギーコストを下げる取り組みを行いました。最新鋭の高効率蒸気ボイラーを導入する一方で、機器類の一部は中古で譲り受けるなどして投資額を抑え、環境配慮型の経営を構築しました。私が社長に就任した2018年に2度目の山形県環境保全推進賞を受賞することができ、省エネ事例発表の要請を受けることが増えました。2022年7月には経済産業省からの依頼を受け、「中小企業のカーボンニュートラルに向けた支援機関ネットワーク会議」にて、省エネへの取り組み事例をYouTubeで発表する機会をいただきました。その他にも、様々な団体の主催するカーボンニュートラル関連のセミナーで発表を行っています。

2022年9月に仙台市で開催されたセミナー

  • ペレット化した再生プラスチック原料(PSP)

  • 山形の名産品、さくらんぼを贈答するための保冷容器

経営に正解はない

どの企業にも様々な経済的困難を乗り越えて現在に至ったエピソードがあると思います。私が社長に就任した2年後に、コロナ禍による受注の急減がありました。特に2020年4月は大きな取引先からの受注が急減し、売上が1割以上も落ち込みました。先の見えない受注環境でこの先どうなるのかと思いましたが、6月にさくらんぼ用の発泡スチロール保冷容器の受注が、12月には米沢牛や山形牛用のギフト用発泡スチロール保冷容器の受注も急増しました。いずれもコロナ禍による「巣ごもり需要」の影響と考えています。

 

しかし、リサイクル事業で当社の発泡スチロール再生原料の生産量が増加した一方、それを買ってくれる会社からの受注が半減してしまうなどもあり、年間で6%の売上が減少しました。技術や人脈をフル活用しお客様からの依頼は全て受注する、外注を出来るだけ減らして内製するなどを徹底し現在に至っています。新型コロナ感染症拡大の最中でも休業ゼロ、雇用調整助成金をもらわずに黒字決算を維持しました。製造業、食品、農業、建築、産業廃棄物など、事業の柱を複数持っていたことで救われました。当社は目立つ存在ではありませんが、受注先となるお客様の事業の安定に貢献していると自負しています。

 

発泡スチロールは用途が多岐に渡りますので、食品や農業、工業、建築、土木、小売りなどの各業界に参入することでリスク分散にもなっています。会社経営に正解はありませんが、既存事業と新規事業の両輪で経営の安定を目指すことが大切だと思います。そして、長年にわたり取引していただいているお客様を大切にしながら、新しい事業の開拓をしています。リサイクルと建築の分野は将来性があると考えています。小さい会社ではありますが、誰もやっていない、きらりと光る事業を地道に作り続けていきます。

山形化成工業株式会社の本社社屋

経営者を志す、敬愛大学在学生の皆さんへ

経営者とサラリーマンは明らかに違います。経営者は時代の変化を読み取り、需要があるステージへ会社を変化させていくことが常に求められます。既存ビジネスの利益の中から、次代のビジネスの種まきや開拓をするのです。正解も保障もない難しい仕事です。加えて、資金繰りも社長の責任です。経営資源(人、物、金)を獲得し、会社経営を軌道に乗せ続けるのが仕事です。変化の激しい時代で、お客様のニーズや外部の環境は刻々と変わります。現在は環境志向が強いですが、これもいずれ変わり、新たな価値観が市場に入ってくるかもしれません。

 

敬愛大学は経済学部を有し、会計や経理について学べるカリキュラムがあります。経理の知識は経営の基本です。大学の4年間で何を学び、どのような力を身につけるかはとても重要です。やりたい仕事に就くには競争に勝たなければいけません。そのためには何か一つでも、他の人より勝っている力(スキル)を身につけておきましょう。3年生になれば誰もが就職活動に向けて動き出しますから、1・2年生の間にコツコツと努力を積み重ねておくと、就職活動のスタートラインに立った時、ライバルに大きな差をつけることができます。

 

学生生活は楽しむことももちろん大切です。「楽しむ時間」と「将来に向けた準備をする時間」の両方をバランスよく確保し、メリハリをつけたキャンパスライフを送ってください。応援しています。

 

全3回にわたり、後藤社長のあゆみを紹介しました。山形化成工業株式会社は、国内の大手企業の事業や流通を支える縁の下の力持ちのような存在です。また、地球環境に優しい省エネへの取り組みは、SDGs社会の到来によってますます重要性を増していくでしょう。後藤社長が経験されたことを参考にして、これからの学生生活を有意義なものにしていってください。

環境に配慮した国内循環型リサイクルビジネス-山形化成工業社長のあゆみ-Vol.1 環境に配慮した国内循環型リサイクルビジネス-山形化成工業社長のあゆみ-Vol.2