会計というのは企業の立場で行われることが主であるため、保有する電子マネーは重要視されていません。つまり、電子マネーの発行についての取扱いが問題となる一方、電子マネーの保有は一般的に顧客であるため、保有している場合にはあまり検討がなされていません。それは企業取引では、小切手、掛け、手形といった従来の支払方法のほうが重要性が高いからとも言えます。そのため、保有する電子マネーに対する取扱いを論じた文献・雑誌はほとんどなく、その文献収集にかなりの時間を要しました。
確かにネット上の匿名の記事には解説はあるのですが、我々教員が学生にいつも伝えている通り、根拠が疑わしい文章は使用することはできませんので、文章の信憑性には注意を払いました。また、従来考えられていた思考を覆す趣旨の論文ですので、そのロジックには注意を払いました。この論文のロジックをもとに考え方が変わったとしても、現在の会計実務の現場に大きな変化はもたらされないと考えます。しかし、今後の企業取引が更に電子化されること(究極現金がなくなる)を念頭に、今後の社会で受け入れられるロジックを考究しました。
経営学科の村上翔一講師(専門は簿記論、財務会計論)の論文が、日本簿記学会の奨励賞を受賞しました。この賞は、学会誌に掲載された簿記に関する優れた研究や実務上の功績に対して与えられるものです。村上先生に論文の概要、教育や研究、今後の抱負などをインタビューしました。
1. 受賞された論文の内容を教えてください。
タイトル:「保有者における電子マネーの会計処理」
学会誌:『簿記研究』第2巻第1号、日本簿記学会、2019
昨今、使用が広まっている電子マネーを保有していた場合の会計処理を検討したものです。電子マネーは、商品券を電子化したものとして法律上取り扱われています。会計上もこの考え方に従って、保有する電子マネーは、保有する商品券と同様に取り扱われていると考えられます。この場合、商品券は特定の商品を受け取ることができる権利(例えば、図書券なら本を受け取ることができる権利)として考えられることから、会計上も特定の商品を獲得できる権利と考えられています。
しかし、電子マネーは、特定の商品を取得できる権利ではなく、ただ漠然と支払手段として理解されているとも考えられます。このような背景から、電子マネーは特定の商品を取得できる権利なのか、支払手段なのかを論じたのがこの論文です。従来からの商品券や電子マネーの会計的取扱い、海外における議論を踏まえ、電子マネーを債務を決済することができる権利(債権を決済しなければならない義務)として把握することを提案しています。
2. 論文を執筆する上で力を入れたこと、苦労したことなどがあれば教えてください。
3. 研究の成果は今後の専門科目の教育にも活かされるでしょうか。学生にはどのようなことを教えていきたいですか。教育・研究についての抱負をお願いします。
私の研究テーマは、ポイント、電子マネー、暗号資産(仮想通貨)といった電子的な価値に対する会計処理です。論点としてはマイナーな論点で、決して会計の王道とは言えないと思います。しかし、これらの論点は近年新しく出てきたものであり、今後の企業活動においては欠かせない論点であると考えています。
会計学は、その論理整合性が重視される学問です。新しい論点であったとしても、従来からの会計理論を理解した上で検討する必要があります。私の研究は、従来からの会計理論の理解と新しい経済事象の理解によって成り立っており、本研究を進めていくことはこれからの企業活動を理解する上で、どのような会計的思考を行うべきかの一端を担うものと考えています。そして、実際にそうなれば幸いです。
このような背景から、私は会計理論と企業活動の両方を学生に伝えられればと思います。会計学はその理論が確立したものである一方、理解されにくい学問と言えます。そのため、可能な限り具体的な企業活動を示しながら、会計理論を教えられたらと思います。