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教育現場の課題に迫る――教育学部4年生の卒業研究中間発表会をリポート

教育学部 4年生

2025/10/01

大学4年生にとって卒業研究は、4年間の学びの集大成です。高校で取り組む探究活動では、自分の興味を出発点にテーマを調べ、考えをまとめて発表することが中心でした。対して大学の卒業研究では、すでに多くの研究者や学生が積み上げてきた知識を土台にしながら、その先にある“まだ誰も知らないこと”を見つけ、自分なりの答えを導き出していきます。

 

9月25日(木)、教育学部の4年生による卒業研究中間発表会が開かれました。研究の途中経過を同級生や教員に伝えることで、多角的な視点から質問や意見を受け、研究をさらに深めていく大切な機会となります。

外国人児童生徒等に対する在籍学級担任の支援

教育学部なので、研究テーマは学校現場で現在浮き彫りとなっている社会課題や教材開発についての研究がほとんどです。Sさんは、将来、小学校教員として赴任したい地域において、外国人児童が増えていることに気付きました。日本語指導が必要な児童に対し支援が十分でないことに問題意識を持ち、「外国人児童生徒等に対する在籍学級担任の支援」をテーマに研究を進めています。複数の先行研究(同様の研究テーマにおいて他の研究者等がこれまで積み重ねてきた研究成果)を丁寧にふりかえり、外国人児童をクラスで孤立させないための支援策を考えています。複数のボランティア活動で実践や聞き取り調査を進めており、今後の成果が楽しみな研究です。

外国人児童生徒が楽しく漢字を学習するために

今年度は外国人児童やその保護者を巡る問題について、多くの学生がテーマに選んでいました。Iさんは「外国人児童生徒が楽しく漢字を学習するために」という研究テーマを掲げています。外国人児童は、当人の日本語習熟度を超えた難易度の漢字を覚えなければならず、学習意欲を保ちにくいという問題があります。実際に船橋市の小学校の日本語指導教室に訪問し、外国人児童を観察すると、「会話はできるが語彙の正確な理解が不十分」という課題を見出しました。

 

この課題解決のヒントは、千葉市立高浜第一小学校の研究報告会で見つかりました。研究報告会で、単純な反復練習は「やらされている」という意識を生み学習意欲を削ぐ一方、ゲーム性を取り入れた授業は児童の主体性を引き出し、楽しみながら知識を定着させる効果が期待できるという報告を受け、Iさんは「漢字かるた」という体験型学習ツールの導入を検討しました。

 

今後の研究計画として、既存商品の「漢字かるた」のメリット・デメリットを分析し、Iさん自身のオリジナル「漢字かるた」を開発します。「例文かるた」「反対語かるた」等のバリエーション展開も可能で、最終的には児童が学んだ漢字で「漢字かるた」を作成する活動により、理解を深めることも目指しています。そして日本語指導教室で効果を確かめ、成果と課題を明らかにする予定です。

『あそぼうさい』を用いた防災教育

Jさんは防災教育について研究しています。先行研究では、災害の恐怖を強調しすぎると子どもたちが思考停止に陥り「防災嫌い」になってしまう一方、楽しさだけを追求すると肝心な学びが抜け落ちて「見せかけの防災」になってしまうことが指摘されています。そこで、Jさんは遊びと学びを両立した「あそぼうさい」に着目。既存の高価格な教材を簡略化し、予算の限られる教育現場でも簡単に導入できるよう調査と改善を進めています。

 

実際にJさんは、自身の所属する敬愛大学のクラブ・サークル(教育ボランティアIris)で、富里市の児童37名と保護者20名を対象に防災イベントを企画・実施しました。学生による寸劇を交えながら「防災バッグづくり」や「簡易トイレ体験」、「水消火器の的あてゲーム」などを実施。参加者が楽しみながら防災スキルを体験できる工夫が凝らされました。

 

イベント後のアンケートでは、参加した児童の多くが「とても楽しかった」と回答し、学生スタッフも全員が楽しかったと答えるなど、参加者・運営者双方の満足度が高かったことが示されました。一方で、児童の感想の中に「学びになった」という声はあったものの、「日常生活に生かそうとする意見はほとんどなかった」という新たな課題を発見しました。また、水消火器の的当てゲームでは消防署から無償で借りられたものの、水の補充後は水圧が足りず、活動に支障が出てしまいました。

 

この結果からJさんは、イベントでの楽しさや学びを、いざという時の「自分ごと」として捉え、実際の行動に繋げるための工夫がさらに必要だと考察しています。今後は、特別支援学校での防災教育についても視野に入れ、低・中・高学年それぞれの発達段階に応じた、より実践的な「あそぼうさい」プランを具体的に提案していく予定です。

土田教授のコメント

教育現場に根ざした調査と研究への真剣な取り組みが伝わってきて、この1年間の成長が感じられます。

土田研究室では「自分の目で見て、耳で聞き、体験する」ことを重視しています。書籍やオンラインでの情報だけでなく、現場での体験的調査により、自分がやりたいことや課題が明確になります。3年後期には体験を含むリサーチを行い、研究室内での研究発表会を実施し、意見交換を通じて研究の質を高めています。

現場から得た気づきを、自分だけのオリジナルな研究へとつなげてください。

発表に対してアドバイスをする教育学部 土田 雄一 教授