敬愛大学では教員として活躍中の卒業生と、現在教職課程で学ぶ学生たちが交流する「敬愛大学教職交流会」を毎年開催しています。11月23日(土)、15回目となる今年は、千葉県をはじめ長野県佐久市や青森県弘前市、北海道紋別市など多様な地域から多くの教員が集まり、在学生と教育現場のリアルな経験を共有し合う貴重な機会となりました。
教職交流会は、教育現場の実践と教職課程での学びを繋ぐことで、教育の質をさらに向上させることを目的としています。参加者同士が経験や知識を共有し、互いに学び合うことで、学生にとっては現場をより身近に感じられる機会となり、卒業生にとっても新たな視点や刺激を得る場となっています。
開会にあたり、教職交流会の佐久間会長より、昭和の教育現場における家庭と学校の協力の大切さについて語られました。佐久間会長は、家庭での音読や宿題を通じて、学校と家庭が一体となり子どもたちの学びを支えていた当時の実践を例に挙げながら、「IT化が進む現代においても、温かな家庭での学びこそが教育の基盤である」と述べられました。
開会挨拶を述べる佐久間会長
第2部教育講演会
東京都小学校教員 Kさん
第2部の教育講演会では、2人の卒業生が登壇しました。1人目は東京都で優秀教員として表彰された小学校教員のKさん(2019年度卒)。小学校でICTを活用した先進的な取り組みを紹介しました。Kさんは、大学時代にフットサル部で活躍し、大学祭「敬愛フェスティバル」の実行委員として運営に携わるなど、多彩な経験を活かして教育現場で活動しています。
Kさんは「児童たちの個性に合わせた個別最適な学び」と「協働的な学び」を軸とした教育の重要性を話してくれました。子どもたちが自分のペースで学び、他者と協力しながら学習を深める環境を整えるため、デジタル端末やICTツールを活用しています。例えば、子どもたちがデジタルノートに考えを書き込み、それを即座に共有・参照できる仕組みを導入。これにより、クラスメイトの多様な意見に触れる機会が増え、協働的な学びが促進されています。また、学習内容や目標を明確に示し、子どもたちが自分で学習の順序を決めることで、それぞれが課題と感じる部分に学習時間を割けるようにしています。
Kさんは「AARサイクル(Anticipation:見通し, Action:行動・実践, Reflection:振り返り)」を取り入れた授業設計についても言及しました。AARサイクルを児童個人の成長に用いることで、子どもたちは学習の見通しを持ち、自ら考え行動し、その結果を振り返るプロセスを通じて深い学びを得ています。このような取り組みは、「教えてもらう」姿勢から「自ら学ぶ」姿勢への転換を目指すものです。
小学校6年生の食物連鎖の単元でカードゲームを制作したり、宮沢賢治の作品をYouTuberになりきって動画で紹介したりするなど、創造性や主体性を引き出す工夫が紹介されました。また、総合的な学習の時間にSDGs「ジェンダー平等を実現しよう」に基づいて制服に長ズボンを導入するなど、子どもたちが社会的課題に主体的に取り組む姿勢も育まれています。
こうした教育実践は、保護者との連携によって支えられています。活動内容や意図を定期的に共有することで理解と協力を得ており、その結果、児童や保護者から高い評価が寄せられています。Kさんは、「令和の日本型教育の実現には教師自身がより良い変化を起こす存在となる必要があります。そのためには授業改善が一番の近道です」と締めくくりました。
Kさんに対する学生の質問
Q.うまく協力できない子や協働に消極的な子もいると思いますが、普段からみんなが協力しやすくするためにK先生がしている工夫を教えてください。
例えば、体育の授業では「相手がいないとサッカーはできないよね」と問いかけたり、国語や算数について「漢字や計算は家でもできるけど、なぜ学校でみんなと学ぶ必要があるのかな?」といった疑問を投げかけたりします。このように、答えを与えるのではなく、子どもたち自身に考えさせることで、自ら協力の意義を見出すよう促しています。単に指示を出すだけでは「先生に言われたからやる」という受動的な態度になりがちです。主体的な気づきを大切にしています。
Q.ここまで環境が整えられるのは、やはり児童や保護者の教育的な意識が高いからこそ実現できていると感じました。私たちが「個別最適な学び」を実践するために、今できることには何があるでしょうか。
本をたくさん読み、YouTubeで大学の講義を見るなど、知ることから始めました。資料や本を読むのは大変だと思いますが、雑誌の切り抜き1枚なら、読み始められると思います。私も林先生(教育学部教授)の元で学んでいた時には、そのように教育の実態を読み込んでいました。続けていて間違いがないことだと思います。今教育実習中でしたら、現場の教員に「こんなことやってみたいんです」と言うと、私の場合はすごく嬉しくなるので、そういう姿勢を持つのも1つ手だと思いますので、ぜひ頑張ってください。
千葉県中学校社会科教員 Nさん
2016年度卒業生のNさんは、県内の中学校で社会科教員として務めています。1人で全学年の社会科を担当していると話すと、会場からはどよめきの声があがりました。「1人で担ってきたからこそ自由に工夫することができた」という教育実践を紹介してくれました。
Nさんは社会科教育の本質を「生きた情報を扱う教科」と位置づけ、日常生活や社会問題について生徒たちが主体的に考える力を育むことが重要だと語りました。そのため、授業では最新のデータやニュースを取り入れ、毎回異なる内容で構成することを心がけているといいます。
社会科の授業において、N先生が特に重視しているのは、教員が「良い発問」を投げかけることです。発問は授業の方向性を決定づけるものであり、生徒が主体的に学びに向かうための出発点となります。発問がずれると授業全体が成り立たなくなるため、事前準備を徹底し、生徒が考えやすく、かつ深い思考につながる問いを意識して設定しているとのことです。
また、N先生は社会科教育を通じて、生徒たちに「主体的な学習者」としての力を育むことを目指しています。そのために、「問いを立てる力」「調べる力」「まとめる力」「話し合い・伝える力」「振り返る力」の5つの力を段階的に育成する授業を実践しています。例えば、中学校1年生の南アメリカ大陸についての学習では、熱帯雨林破壊の写真を見せて課題を見出させ、さらに「いい質問カード」を活用して多角的な問いを立てさせる工夫をしています。このようなプロセスによって、生徒たちは自分で課題を発見し、それに基づいて調査・考察する力を養っています。
さらに、ICTツールの活用法として、生徒が集めた情報の信頼性や価値を吟味する方法も指導しています。『情報吟味カード』を使い、「誰が書いた情報か」「元ネタは何か」「いつの情報か」などの視点から情報を比較・検討させることで、情報リテラシーを高めています。
最後にN先生は、「生徒の成長を見逃さないこと」も大切だと強調しました。こちらから適切な発問を与えると、生徒たちは授業に一生懸命取り組みます。この時、生徒が気づきを得るなどの変化を見逃さないで、その場で褒めたりワークシート上で具体的にフィードバックしたりすることを意識して続けています。生徒たちと一番長く接する時間は授業です。「面白い・楽しい授業 = 生徒との信頼関係」だと考えて、日々面白い授業を心がけて作っているそうです。
Nさんに対する学生の質問
Q.多くの授業時間の中でどのように教材研究をやっているのでしょうか。意識するべきことや、 留意しておくべき点を教えてください。
私は計画から逆算をして、準備期間が何週間あるのかを意識し、1日30分なり15分なり、ちょっとずつ準備を進めています。1つのものを長時間でやると負担になるので、少しずつ細かに準備を進めています。他の学校の社会科教員に資料をいただいて、参考にすることもあります。
Q.生徒との信頼関係を授業の中で築いていくことについて、面白い授業をするための工夫や、生徒との接し方についてのコツを教えてください。
自分自身がまず楽しくないと生徒たちは楽しくなりませんので、「楽しむぞ」といった気持ちでいつも授業を作っています。生徒たちが今どういう疑問を持ってるのか、アンケートを取って、それを取り上げて生徒たちの目線で授業を進めていくこともあります。こういうこともしてくれるんだと、信頼関係が築けます。お互いに今、何に興味があるのか、相互理解に基づいて授業を進めていきたいと思っています。
この他、第2部では、事前に学生から寄せられた質問に対して現職教員が答える形式のセッションが行われました。また、在学生の活動として、今年度の海外スクーリングで訪れたスペインにて、現地の日本人学校を見学した際の取り組みについて報告がありました。
スペインでの海外スクーリングの様子はこちら
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学生からの質問集に答える卒業生
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海外スクーリングの報告をする学生
第3部:交流会 在学生と卒業生が交流を深める
交流会では、新教育棟のカフェテリアでの立食パーティが実現しました。冒頭に、卒業生が、「このような場でないと言えないこともある。在学生は積極的に話しかけてほしい」と挨拶し、在学生と卒業生が食事を囲みながら縦の交流を深めました。交流会は大いに盛り上がり、教育現場での課題や悩みを同窓生や先輩、大学教員と共有し、在学生も交えながら活発な議論が交わされていました。
来年度の11月にも教職交流会を実施します。敬愛大学を卒業しても、ぜひ毎年の交流会に参加し、知恵と経験を後輩たちに受け継いでいただきたいと思います。
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