Sさんは、日本文化を伝える京都の伝統産業が衰退していることに思いを馳せ、復興するための解決策を研究しました。京都の伝統産業の中でもSさんは西陣織に着目。千葉県や東京都に通学している高校生と大学生にアンケート調査を行い、西陣織の知名度や需要を調査しました。結果を見てSさんは驚きました。西陣織は大学生・高校生の19%しか知られていなかったのです。Sさんは若者への需要を喚起するため、小物製品主体へのシフトを提案しました。マスクやハンカチにはすでに西陣織を使った商品が出ていますが、スマートフォンやノートパソコン、マウスなど、あらゆる場所に持ち運ばれる情報端末やその周辺機器には使われていないことを指摘。軽量でクッション性がある素材を活かした商品開発やSNSを利用した販売戦略、国内企業とのコラボレーションマーケティングなどを通して、西陣織の商品としての魅力と西陣で働くことの魅力を高めていくべきだと発表しました。
2月7日(水)、経済学科の卒業論文報告会を開催しました。経済学科では4年次に全員が卒業論文を執筆します。今年度、優秀賞に選ばれた発表者は5名です。発表はオンライン上で行われ、経済学科の教員のほか、学生も自由に視聴できます。発表に対し教員から鋭い質問が飛んでいましたが、1年間にわたり卒業論文に打ち込んできた学生たちは、質問に的確な答えを返していました。発表後には5人の発表者の中から最優秀賞が選ばれます。どのような研究が最優秀賞に輝いたのでしょうか。
Sさん(小山ゼミ)「京都市におけるコロナ後の伝統産業の復興-京都市西陣を例に-」
Aさん(和田ゼミ)「千葉銀行とコンコルディアFGから見るリスクテイクの違い」
Aさんは千葉県内の銀行への就職を目指し、千葉銀行とコンコルディアFG(横浜銀行)の経営戦略について比較研究を行いました。2つの銀行の最大の違いはリスクマネジメントにあるとAさんは言います。コンコルディアFGは銀行ではなくソリューションカンパニー(顧客のニーズを解決する会社)を目指し、失敗を恐れず挑戦するというビジョンを掲げ、ハイリスクハイリターンな戦略を採っています。有価証券投資によって毎年の利益が大きく変動するのが特徴です。背景には千葉銀と比べ海外法人の株主が多く、それら株主を維持するための戦略があると分析しました。Aさんは卒業後、県内の銀行に入社するようです。コンコルディアFGの戦略とは異なり、地域企業に寄り添い、安定的に利益を確保できる信頼性の高い銀行を目指したいとのことです。
Kさん(根本ゼミ)「物流『2024年問題』の解決策 ~運送・物流業界の労働者を守るには~」
Kさんは運送業でアルバイトをしており、間近で従業員の働き方を見て、人手が足りないと身に染みて感じていたようです。そんなKさんの選んだテーマは物流「2024年問題」です。運送・物流業は人材不足や長時間労働による過労死など、大きな問題を抱えており、どのようにしたらトラックドライバーが働きやすい社会を作れるか研究しました。改善策として、政府が物流拠点を最適化することにより、在庫管理の改善や走行距離の短縮ができ、生産性が向上できると言います。また、運送業者は運行管理システムを導入することで、無駄な工程を省き業務負担を軽減すること、荷主企業には運賃値上げや物流体制を見直すことを求めています。そうした改善状況をWebで情報発信し、求人を出していくことが大切だとまとめました。
Iさん(矢口ゼミ)「少子化政策のみらい -日本人が結婚や出産を避ける理由-」
Iさんは、大学生の少子化問題に対する意識を調査するために、アンケート調査を行い、敬愛大学と慶應義塾大学の学生から142票の有効回答を得ました。アンケート調査の結果、年金制度の崩壊、外国人労働者の増加、財政や経済の問題などを理由に、多くの学生が少子化に対して不安を感じていることが明らかになりました。 少子化対策が遅れた原因として、少子化現象を問題視しなかったことや若年層の声を聞かなかったことが挙げられています。 少子化が進行している原因として、経済的な余裕がないという意見が最も多く、また、雇用主に対する問題として賃金格差、労働環境、男女差別などの問題を挙げる学生が多いことが分かりました。これらアンケートをもとにIさんは少子化対策として、出産・子育て費用や教育関連費用の無償化等を行い、年収等の要件を満たす人への大規模な支援を行うべきだと提言しました。
Sさん(八木ゼミ)「空き家問題における各行政主体の対策について」
Sさんがテーマに選んだのは、近年、地方自治体で問題となっている「空き家」の増加についてです。不法侵入や不法投棄など、治安悪化を引き起こす空き家問題は、所有権の問題があり行政による対策が困難です。これに対し、国は空き家法を制定し対策を進めようとしています。しかし、Sさんは国のガイドラインや都道府県の手引きによって、地域特有の事情が考慮されず画一的な対策になっていることを調べ上げました。そこでSさんは、地域独自の対策も盛り込める新たな施策を考えました。具体的には、空き家率や居住者の年齢に基づく対策計画を作成し、都道府県への報告制度を設け、市町村が空き家の管理の限界を超えたら、都道府県が直接管理できるようにする仕組みです。この基準を超えていなければ、市町村の空き家対策にある程度の裁量を与えるという制度です。Sさんは卒業後、地元の県庁に勤めるそうです。大学での研究が県の政策に活かされることを期待します。
結果発表
経済学部の卒業論文報告会では「論文の問題設定の明確さ」、「論旨展開の論理性」、「論旨展開における客観的根拠の明確さ」、「プレゼンテーション上の工夫や分かりやすさ」の4点を評価軸として最優秀賞を選びます。5つの報告はどれも優れており、投票結果は僅差でしたが、最優秀賞は「論旨展開の論理性」と「論旨展開における客観的根拠の明確さ」において高い得点を挙げたSさんの「空き家問題における各行政主体の対策について」に決定しました。
経済学科の根本 敏則 教授は、「どの論文も面白い論文でした。それぞれが、独自の視点を持っていて、ただ既存の教科書的な説明ではなく、自分なりに味付けしようという意気込みがありました。研究にあたりそれは、とても良いことです」と感想を述べました。また、矢口 和宏 教授は、「今年度の4年生は2020年、コロナ禍の真っただ中に入学した世代です。対面授業ができなかったり、友達が作りづらかったり大変だったと思います。しかし、蓋を開けてみれば、5人の学生が卒業論文報告会に参加してくれました。コロナ禍でもゼミ活動を有意義に過ごした結果が伝わってくる発表内容でした。私としては望外の喜びです」と語りました。
報告:IR・広報室