第三次中東戦争における国連安全保障理事会決議242号の「占領地からのイスラエル軍の撤退」については、「すべての占領地」と言及されていないため、イスラエルとしては、撤退は一部でもよいと認識している。
また、同決議には「安全かつ承認された境界線内において平和に生存する権利」があるとのべられている。したがって、安全な国境を設定するために占領地の一部をイスラエルが保持することは正当である。
TEACHERS/STUDY/LABO
国際学部 国際学科 水口 章 教授
2023/12/21
10月7日から突如始まったイスラエルとパレスチナの紛争はガザ地区の学校や病院が破壊されるなど、今も民間人に多大な被害をもたらしています。12月5日(火)に行われた国際学部1年生の合同ゼミではイスラエル・パレスチナの紛争をテーマとして取り上げました。国際社会学、中東イスラム研究が専門の水口教授が特別講義を行い、イスラエル・パレスチナで今何が起きているのかを学びました。
水口教授は中東地域のアナリストとしてマス・メディアで長年活躍してきました。現在でも中東諸国の記者や政府職員とのコネクションがあり、最新の情報を知ることができます。
水口教授は日本のマス・メディアは情報を正しく伝えていないと指摘し、今回の授業では水口教授のコネクションから得た情報を交えながら、イスラエルとパレスチナ双方の立場を理解し、異なる視点から情報を考え、自分自身の意見を形成することを学びました。
12月5日現在、パレスチナでの犠牲者は15,000人と発表されていますが、その数には瓦礫の下で埋もれたままの人は含まれていません。犠牲者の約4割が子供と言われており、ハマスとの関りがあるはずもありません。なぜ15,000人以上の犠牲者が出てしまったのか、平和的解決の方法は無かったのか、学生も考え悩んでほしいと水口教授は言います。
会場には国際学部1年生の他にも、多くの学生や教員が聴講に訪れ、満席となりました。パレスチナ市民の悲惨な現状や難民キャンプでの暮らしを聞き、真剣な表情で聞き入る姿が見られました。
ここで戦争の背景となるそれぞれの主張を比べてみましょう。
第三次中東戦争における国連安全保障理事会決議242号の「占領地からのイスラエル軍の撤退」については、「すべての占領地」と言及されていないため、イスラエルとしては、撤退は一部でもよいと認識している。
また、同決議には「安全かつ承認された境界線内において平和に生存する権利」があるとのべられている。したがって、安全な国境を設定するために占領地の一部をイスラエルが保持することは正当である。
占領地からの撤退に「一部」という表現を付さなかったのは、「すべての占領地」からの撤退を求めたためであり、撤退の程度については議論にさえなっていない。また、占領地での一方的な国境線の画定が認められることはない。
決議242号はフランス語で「すべての占領地」と明確に書かれているものの、英語版では不明確となっています。イスラエルは英語版の曖昧さを利用し、パレスチナ領土への入植拡大やパレスチナ人の権利制限を正当化してきました。このように国際社会では強大な軍事力を持つ国家が自らの利益のために力を行使し、無理を通すようなパワーゲームが頻繁に見受けられます。
ロシアのウクライナ侵攻に続き、イスラエル・パレスチナ紛争の停戦決議ではアメリカが拒否権を行使しました。このような事態が続けば、世界から秩序が失われてしまいます。力をもった者が力で解決する動きに歯止めが効かなくなるだろうと水口教授は懸念します。
2001年の同時多発テロ以降、暴力を用いてテロに対処する姿勢が見られてきました。しかし、暴力では本質的な問題の解決には至らず、むしろ暴力の連鎖と憎しみを生み出し、新たなテロ行為を生み出すことでしょう。
また、「テロ」というレッテルは、権力者にとって便利な道具となります。権力者は反対派がテロ組織であると指定して、軍事力での抑圧を正当化しようとするでしょう。国際法で認められている民族自決のような政治的権利の追求までもが、「テロ」というレッテルを張られて弾圧されてしまいます。
世界は様々な意見に分かれて、自分が正しいと信じ、相手の意見を聞けなくなっているのではないかと水口教授は考えています。
イスラエルとパレスチナ、双方の立場は異なりますが、共通の規範があるはずです。問題を平和的に解決するためには、お互いの立場を理解し、共通点を見つけることが大切だと語りました。どのようしたら中東に平和が訪れるのでしょうか。学生一人一人が平和への構想を持つことが大切です。
報告:IR・広報室