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育児休業やワークライフバランスの取り組みを考える(4年次専門研究)

国際学部 水口 章 教授 

2023/07/28

国際学部の4年次専門研究(水口ゼミ)では、社会保障・福祉の制度が私たちの生活に与える影響について探究しています。日本や世界の政策のあり方への理解を深め、日本の社会問題・課題を解決するための能力を高めることがねらいです。前期のゼミでは、わが国における福祉・労働・家族政策を中心に学んできました。今回は、「育児休業」「ワークライフバランス」の取り組みを調べた学生たちが発表を行いました。

育児休業の現状と課題

まず、「育児休業」について2人の学生がそれぞれ発表を行いました。
K.Oさんは、育児休業(法律で定められている公的な制度)と育児休暇(企業などが独自に定める制度)の違いについて触れ、日本と世界の違いを調べました。日本では父親の育児休業取得率の低さが問題になっています。一方、スウェーデンでは88.5%(2012年)となっており、多くの父親が育児休業を取得しています。両国にはどんな違いがあるのかや、日本における育児休業取得率を上げるための提案を行いました。

 

続いて発表したM.Oさんは、父親の育児休業における給付金に注目しました。日本の給付額は、フルタイム就業の日数に換算した場合に世界トップクラスであるそうです。しかし、その取得率は思うように上がりません。スウェーデンやドイツの取り組みを調べたところ、「取得を促す仕組みづくり」に注力していることがわかりました。
スウェーデンは取得しやすい環境にあり、両親ともに育児休業を取得する意識を高めるために、240日ずつの休業給付が「親の権利」となっているそうです。ドイツでは、2007年に育児休業制度を改正しました。母親に加え父親も取得すると、期間を12ヶ月から14ヶ月間に延長できます。2015年にさらに改正され、休業期間中に所得の67%が「両親手当」として補償されています。結果、ドイツの父親の育児休業取得率は43%までアップしたそうです。これらの仕組みはパパ・クオータ制度と呼ばれています。

※育休の一定期間を父親に割り当てるもの。1993年にノルウェーが導入し、北欧を中心に広がった。

日本の父親の育児休業を取得率はなぜ低いままなのでしょうか

ワークライフバランスを通して、これからの働き方を考える

次に、3名の学生がワークライフバランスについての発表を行いました。Y.Tさんは「スウェーデンから学ぶワークライフバランス」というテーマで、日本人とスウェーデン人の考える「ワーク」の違いには以下のような傾向があるそうです。

 

・日本人の「ワーク」

自分より、仕事の優先順位が高い。多少体調が悪くても迷惑が掛からないように出勤する。残業する人に対してポジティブ思考(頑張っている、責任感があるなど)。休むことに罪悪感がある。

・スウェーデン人の「ワーク」

仕事は家事などと同じで生活の一部。体調が悪い時は、自分を優先して休む。残業する人に対してネガティブ思考(時間内に仕事をこなせない、だらしないなど)。オンとオフの境界線があいまい。職業や仕事内容はパーソナリティを判断するものではない。

 

また、スウェーデンでは社会・企業・個人がそれぞれうまく機能することで良いサイクルが生まれ、ワークライフバランスが保たれやすい環境になっていることを紹介し、私たち一人ひとりが、生きる事についての考え方や意義をもう一度見つめ直す必要があると話しました。

 

ワークライフバランス推進の大切さとその課題を説明

続くJ.Sさんの発表では、ワークライフバランスのメリットと課題を紹介しました。ワークライフバランスとは「働くすべての人々が仕事と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動の両方を充実させる働き方や生き方である」としています。ワークライフバランスの実現に向けたプロセスとして、家族ファーストの働き方を追求していくことの大切さについて紹介しました。

 

最後に発表したN.Sさんは、日本とヨーロッパにおけるワークライフバランス推進の方法の違いについて触れました。ヨーロッパでは、国や社会として改善に取り組む形を取っていますが、日本では、国が企業に改善を求める形で推進されています。その背景には、高齢化社会における労働力不足が関係しているようです。ワークライフバランス推進の中心が国ではなく企業側にあることで、企業によって対応に差が出てしまうことが課題の一つとして見えてきました。私たちは、自分の理想とする働き方や人生設計を明確なものとしておく必要がありそうです。

日本のワークライフバランスの課題への改善策を考える

学生の感想

育児休業について

  • 育児休業制度について、基本的な知識がなかったので大変勉強になった
  • 日本の育児休業制度は父親に優しいものとなっているにもかかわらず、普及が進まない要因をもっと深く考えてみたい
  • 制度を利用しようとすると会社の雰囲気が悪くなってしまうのは、人員不足をカバーできないからではないか。企業に対してのサポートが必要だと思う
  • 育児休業制度に対して理解のない職場は、社会の変化についていけていないと思う
  • 政府の対策が後手に回ってしまっていると感じる。現場における「取得しにくい理由」に対する適切な政策がないのではないか。企業の声を聴いてほしい

 

ワークライフバランスについて

  • 欧州の国々に比べて日本はまだ「働く時間」に対する比重が大きいと思う。バランスよく生活できる社会になって欲しい
  • スウェーデンと日本との考え方の違いが面白かった。時間内に仕事を終わらせることが大切なんだという考え方が勉強になった
  • 欧州だけでなく、アジアのワークライフバランスに対する考え方も調べてみたい
  • 自分はどのように働いていきたいのか、社会に出た時の目標を持って生きていきたい
  • 「働く」ということは自分にとってどういう意味があるのか、しっかり考えたい

 

水口教授より

授業の最後に水口教授から、これから社会に出る上で、性別役割分業のあり方を考えて欲しいというメッセージがありました。欧州では、国家や社会、地域が子どもを育てていくという考え方が広がってきていますが、日本はどうでしょうか。ワークライフバランスや育児休業について考えることは、これからの人生設計やキャリアについて、自分なりに考えてみることなのかもしれません。

 

※「男は仕事・女は家庭」といった、個人の能力とは関係なく、男性・女性という性別を理由として役割を分ける意識を持っていること。今日でも日本においては「男は働き、女は家庭」という性別役割分業観を否定する者が他国に比べて少ない。(内閣府ホームページより一部引用)

水口教授

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