私は約30年間、小学校の教員として現場で実践を積み重ねてきました。最後の約5年間、特に問題意識をもって取り組んだことは、教室を「探究の共同体」にすることでした。子供たちは、自分の思考を深める時に、他者との応答の中で考えを深めます。他者と応答することは、自分の発想にはなかった考えと出合い、一人で考えていた時よりも、より一層広く豊かな世界を発見することができ、それが人間の公共性を育くんでいくと考えていたからです。考えることを楽しみ、教室が本気になって考える学びの集団になることこそ、教育の真にあるべき姿、「探究の共同体」だと考えています。
ゼミ生の皆さんは「探究の共同体」を実際に体験し、その重要性を文献講読から学んだり、模擬授業から学んだり、小学校の実際の授業を参観することなどを通して、みんなで考えていきます。教育現場に着任したとき「生きて働く力」として生かせるゼミにしたいと考えています。
1. 佐藤先生のご専門の分野について教えてください!
専門は、生活科教育・社会科教育です。大学では、1~3年生のゼミと、生活、生活科指導法の講座を担当しています。私が掲げる研究の重要なキーワードは、「探究」です。子供たちの学びを樹木に例えると、従来の学習は、幹の育ちや葉のつき具合や大輪の花といった、主として「見える学び」に目がいきがちでした。しかし幹・葉・花が人々の心の潤いとなるように、土の奥深くまで根を張り巡らせて養分を送り続けている根に目を向けることこそ「探究」のはじめの一歩だと考えています。課題を解決するために、自分の考えをしっかりともち、異なる他者の意見に真摯に耳を傾け、他者の考えを尊重し、話し合いを積み重ねたり、さらに詳しく調べたりしながら、より一層深く考えて自分なりの結論を導き出す学習過程を繰り返すことで「物事の本質」を探ったり見極めたりする力が「探究」の学びによって育まれていくのです。
生活科は、「探究」ではじまり「探究」で締めくくる学習です。学校のある地域の実態や目の前の子供たちの実態に基づいて、生活科の学習は構成されていきます。教員の探究力、選択眼、教材研究、センス、アイデアなどにかかってくる部分が多くなります。それを苦手とする教員にとっては敬遠したくなる学習材かもしれませんが、地道に調べ、情報を収集すればするほど、子供たちの興味・関心を引き、面白い教材を作成できることは間違いありません。
後期の「生活科指導法」では、グループごとに敬愛大学周辺の地域の特色や素材を生かした授業づくりを実践することができました。生活科の面白さと難しさを理論と実践をじっくり一歩一歩、丹念に積み重ねながら学生と共に考え、「探究」というアルバムを1ページずつ増やしています。
2. 佐藤先生のゼミのテーマを教えてください
3. 教育の場を小学校から大学へ移した理由を教えてください
私は6年前に大学院で研修する機会を得て、1年間に約50回もの授業を参観しました。子供たちの姿を通して、私が大きな課題として捉えたことは、子供たちと指導者との間で一問一答形式が続いたり、せっかくいいつぶやきや疑問を子供たちが発しているのに指導者は気付くことなく見過ごしたりしていることでした。
この問題の根幹にあるのは、子供たち同士に学び合う関係が築かれていないことが大きく関わっていると考えます。「教える教育」から「子供自らが学びの主体者となる教育」を実現させるためには、教員自身の授業実践に対する考え方や力量、現場での授業を大きく転換させることに目を向けるべきだと私は強い想いをめぐらせています。
私が大学教員を志したのは、これまでに私自身が培ってきた教育実践を、これから教員を目指す学生に分かち伝えるためです。毎日真剣に学ぶ大学生たちに、しっかりと種をまき、実際現場に出た時に、大学での学びがつぼみとなり、やがて大輪の花を咲かせることに繋がれば、子供たちももっと生き生きと学ぶようになると考えています。子供自らが学びの主体者となり、「クラスの皆が探究の共同体」という目標に一歩でも近付けばと願っています。
4. 教員を目指す学生に期待することは何ですか?
大学4年間を日数に換算すると「1461日」です。人によってはその貴重な大半の時間を、スマホを見る時間に費やしてしまう人もいるかもしれません。学生の皆さんには、ネットの世界に浸るのではなく、本物の良さを味わったり、多くの人と交流したり、たくさんの本を読んで欲しいと願っています。10日で1冊の本を読んだら、146冊も読むことができます。毎日、新聞を隅から隅まで読んだら、世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあることを実感し、知る喜びをさらに味わうことと思います。
2045年には、AIが人間の知能を超える、すなわち「シンギュラリティー」の時代が到来します。しかし、自分自身に自信をもてない子供の気持ちに寄り添ったり、子供たちがやってみたいことを一緒に探究したりすることは、AIにはできません。そのためにはこれからの教員に必要な力は、ただ単に多くの知識をもっている人でもなければ、勉強を教え込むだけの力量がある人でもありません。人として、多くの子供たちや保護者から信頼を得られる人です。
1461日という限られた日々と時間を、共に研鑽を積み、「探究」する仲間を大切にし、常に社会の情勢にアンテナを張ること。そして旺盛な「探究」の意欲と眼を研ぎ澄まし、いろいろな難題にも立ち向かう感性豊かな魅力のある人になってくれることを願っています。
5. 敬愛大学受験を目指す方へメッセージをお願いします
大学入学は人生のゴールではありません。自分の人生の道筋を模索する新たなるスタート地点に立つことを意味します。本当に自分がやってみたいことは何なのか、自分で探究したり、いろいろな人たちと対話をしたり、気になったスポットを実際に自分の足で探検に行ったりすることが、自分をさらに成長させることに繋がるのです。どのような大学生活を自分自身が過ごすのか、という意識改革次第で、大学生活の意義も変わってきます。まずは、目の前にしっかりとした目標と自覚をもち、今やるべき当たり前のことを一つ一つしっかりと成し遂げていってください。