敬愛人

敬愛大学で輝く「人」「学び」を紹介

TEACHERS/STUDY/LABO

教員・学び・ゼミ

作品と対話で深める研究②――国際学部 増井ゼミのゴッホ展鑑賞

国際学部 増井由紀美教授

2025/12/23

国際学部4年の増井ゼミでは、卒業論文・ゼミ論文に向けた研究の質を高めるため、学外での鑑賞・調査活動を実施しています。ゼミ生の研究テーマは、ジェンダー、戦争、記憶、人種、非言語コミュニケーション、家族、スポーツ指導、音楽表現など多岐にわたりますが、週1回、論文の進捗報告を重ねる中で、研究方法や扱う資料の面で共通点が多いことが見えてきました。そこで、研究の参考となる展覧会を訪れ、オリジナル作品や資料に直接触れることで、論考の質の向上を目指すことにしました。さらに、自分の研究が社会とつながり、将来的に社会へ還元される可能性を体験的に自覚することも、本活動の重要な目的です。
(本活動は国際学部国際学会の研究活動助成金を申請し、実施しました。国際学会は教員・学生で構成され、教員による紀要『国際研究』、学生の活動記録『Jump into a New World!』を毎年発行しています。)

ゴッホの“まなざし”に触れる鑑賞体験

第2回目となる今回の課外活動では、上野の東京都美術館で開催中の『ゴッホ展―家族がつないだ画家の夢』を訪れました。本展の大きな特徴は、世界的画家であるフィンセント・ファン・ゴッホの作品だけでなく、その評価と普及を支えた弟テオ、そしてテオの妻ヨーの存在に光を当てている点にあります。とりわけ、これまで十分に語られてこなかったヨーの功績が丁寧に紹介されており、フェミニズム研究の広がりがこうした展示を可能にしていることも強く印象づけられました。

 

今回参加したゼミ生の研究テーマは、「美術館・博物館の展示方法」「歴史の中で活躍した黒人女性」「日本におけるジェンダー教育」「日本の仮面文化」など多様です。展覧会鑑賞を通して、それぞれが自らの研究と作品・展示の在り方を結びつけて考える時間となりました。

 

展示室では、ゴッホの代表作や手紙、関連資料を前に、学生たちは思い思いのペースで鑑賞を進めました。実際に作品と向き合うことで、画集や映像では得られない気づきが生まれていきます。ある学生は、過去にアムステルダムのゴッホ美術館を訪れた経験を振り返り、「以前見た自画像と再会できたような感覚があった」と語りました。また別の学生は、筆致の細やかさや色彩の選び方に注目し、「一筆一筆に強い意志を感じた」と感想を述べていました。

「喫茶店ゼミ」――12月のイルミネーションが美しい日比谷にて

鑑賞後は、老舗喫茶店「Café紅鹿舎(ベニシカ)」で恒例の“喫茶店ゼミ”を行いました。落ち着いた空間の中で、作品と研究をつなぐ対話が自然と始まります。

学生の声:ゴッホ作品から受け取ったもの

  • 実物を見ることで、ゴッホの筆の跡や色の重なりに圧倒された。教科書的な知識とは全く違う体験だった。

  • 家や椅子、農婦など身近な題材が多く、ゴッホの生活や人柄が伝わってくるように感じた。

  • 全体を通して、温かくて優しい印象を受け、見ていて幸せな気分になった。

卒業研究とのつながり

  • 展示構成への着目(記憶のための展示方法)
    ゴッホ作品そのものだけでなく、弟テオや妻ヨーの存在、ヨーの会計簿などの資料を含めて展示している点に注目しました。作品を「個人の才能」としてではなく、「家族によって支えられ、記憶として継承された営み」として提示している構成が、研究テーマと重なりました。

  • 歴史に埋もれた女性の役割(黒人女性史・ジェンダー研究)
    ヨーの活動は、歴史の中で大きな役割を果たしながら評価されにくかった女性の存在を可視化している点で、アメリカ史におけるハリエット・タブマンの研究とも通じるものがありました。展示を通して、女性の貢献をどのように伝えるかという視点が深まりました。

  • 教育・研究への応用(ジェンダー教育)
    作品解説や資料の配置によって鑑賞者の視点が自然に広がる展示構成は、ジェンダー教育において「気づきを促す学び」を考える上での具体的なヒントになりました。

  • 共通の気づき
    一人の画家の作品鑑賞にとどまらず、展示全体のストーリーや背景に目を向けることで、各自の卒業研究が社会や歴史とどのようにつながっているのかを再確認する機会となりました。

※ハリエット・タブマン(Harriet Tubman)は、19世紀アメリカで活躍した黒人女性の解放運動家。

鑑賞体験を振り返って(増井より)

ゴッホは生涯を通じて表現方法を探求し続けた画家です。浮世絵に影響を受け、アルルを「日本」に重ねていたという解説にも、学生たちは納得していました。作品を見ること、展示の構成を読むこと、そして対話すること――そのすべてが研究につながっています。締め切りを意識しつつ、計画的に卒業研究を進めていきましょう。

国際学部の紹介