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作品と対話で深める研究――国際学部 増井ゼミが美術館で学ぶフィールドワーク

国際学部 増井由紀美教授

2025/12/10

国際学部4年の増井ゼミでは、卒業論文・ゼミ論文に向けた研究の質を高めるため、学外での鑑賞・調査活動を実施しています。ゼミ生の研究テーマは、ジェンダー、戦争、記憶、人種、非言語コミュニケーション、家族、スポーツ指導、音楽表現など多岐にわたりますが、週1回の研究報告会を重ねる中で、研究方法や扱う資料の面で共通点が多いことが見えてきました。そこで、研究の参考となる展覧会を訪れ、オリジナル作品や資料に直接触れることで、制作物・論考の質の向上を目指すことにしました。さらに、自分の研究が社会とつながり、将来的に社会へ還元される可能性を体験的に自覚することも、本活動の重要な目的です。
(本活動は国際学部国際学会の研究活動助成金を申請し、実施しました。国際学会は教員・学生で構成され、教員による紀要『国際研究』、学生の活動記録『Jump into a New World!』を毎年発行しています。)

作品鑑賞が、研究を“社会につなぐ”感覚を育てる

今回の企画を発案したのは、「ホロコーストがどのように継承されているか」の研究を進めている嶋野さんです。他のゼミのメンバーの研究対象からみても、この展示は私たちの関心と近いかもしれない、と考えたそうで、第1回目の鑑賞・研究会として『時代のプリズム展』を訪問することにしました。今回の活動を通して、作品を「見る」だけではなく、自身の研究テーマと照らし合わせながら意味を掘り下げ、言葉にして共有する経験をゼミ生たちにしてもらうことが、私のねらいでした。

国立新美術館へ――作品との“出会い方”も研究の一部

集合場所に早く到着したゼミ生は、黒川紀章による建築そのものを味わったり、広いロビーでインテリアや人の流れを観察したりと、入場前からすでに“フィールドワーク”が始まっていました。展示室に入るところまでは団体で行動しましたが、鑑賞はそれぞれのペースで進めます。ある映像作品(1984年の記録映像)の前でしばらく足を止める学生もいれば、関心のおもむくまま次々と展示を巡る学生もいました。時折、会場内で短い言葉を交わして、また自分の興味の方向へ戻っていきます。鑑賞時間は1時間から2時間とばらつきがありましたが、この“個の鑑賞”が、次の時間をより濃いものにしていきます。

「喫茶店ゼミ」――夕焼けの帰り道から、対話が深まる時間へ(インタビュー形式)

鑑賞後に向かったのは、嶋野さんおすすめの喫茶店「Blue Montague」です。ケーキと飲み物が揃うと、“喫茶店ゼミ”が始まりました。

Q(増井)今回の展示で、特に印象に残った作品は?

A(学生):ジェンダー・エイズ・セクシュアリティを扱った作品です。当時のリアルを記録し、アートとして残す意義を感じました。今の社会にもつながるテーマだと思います。
B(学生):巨大な黄色いオブジェです。強烈なインパクトがあって、「作品の力」を体感しました。
C(学生):チェルノブイリの黄色い防護服の人物を表した作品です。大学のボランティアで被災地を訪れた経験とも重なり、原発の汚染について改めて考えさせられました。

Q(増井)私は会場冒頭の映像展示が強く残りました。「芸術とは批評である」という言葉が印象的で。みなさんはどうでしたか?

A(学生):チェルノブイリの作品は、汚染や原爆なども含めて「記憶とは何か」を考えるきっかけになりました。
B(学生):壺から手が出ていたり、鶏の腹が女性の顔になっていたり…。怖さもあるけれど、忘れられない強い印象がありました。
C(学生):英語で『牛若丸』の話が流れ、仮面づくりの映像が続いたあと、最後に仮面をつけて踊るんです。構成が面白く、惹きつけられました。

Q(増井)今日の鑑賞は、卒論・ゼミ論の研究につながりそうですか?

A(学生):はい。私のテーマは「ホロコーストの記憶」ですが、芸術作品が記憶の継承に果たす役割を再確認できました。
B(学生):私は「非言語コミュニケーション」がテーマなので、言葉ではない“インパクト”や表現の強さが研究にもつながると感じました。
C(学生):私は南北戦争前のアメリカの「Underground Railroad」を研究しています。対象は一国でも、そこから見えるものには普遍性がある。今日の作品も多様でしたが、作家の問題意識と自分の研究がつながっている感覚がありました。

鑑賞体験を振り返って(増井より)

今回は会場冒頭の映像展示から、「芸術とは批評である」「批評するところから芸術は始まる」という言葉が強く印象に残りました。鑑賞後の“喫茶店ゼミ”では、学生それぞれが受け取った問いや感覚を持ち寄り、対話を通して理解がさらに深まっていく様子が見られました。作品をきっかけに、自分の研究テーマと社会との接点を見出していく――そのプロセス自体が、研究活動にとって大切な学びになっています。

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