ある日、言葉をまねして届ける不思議な鳥「でんごんツバン」がやってきます。ツバンを使って遠くにいる友だちへ言葉を伝え合う遊びが始まりますが――「“かわいくない”ってどういう意味?」「返事が遅いのはどうして?」「行かないって意味で『僕はいいよ』と言ったのに…」やりとりが増えるうちにすれ違いや誤解が起こってしまいます。
小学校の授業は、国語や算数のように「知識」や「技能」を身につける教科だけではありません。道徳科は、「人としてどう生きるか」を子どもたちと一緒に考える授業です。正しい答えが一つとは限らず、そもそも答えのない問いもあります。「命とは?」「友だちと仲良くするには?」――そんな深いテーマを、子どもたち自身が向き合い、悩み、考えます。道徳科は教える側にも他の教科とは異なる工夫が必要なのです。
7月14日(月)、教育学部の土田雄一教授による「道徳科指導法」の授業で3年生が模擬授業を行いました。これまで指導案作りを進めてきた学生たちはどのような工夫を考えてきたのでしょうか。
顔の見えないやりとりの難しさを考える
1つ目のグループは「顔が見えないコミュニケーション」をテーマに模擬授業を行いました。現代では、小学生でもスマートフォンやタブレットを使ってやりとりすることが当たり前になってきました。しかしその一方で、文字や画面越しの会話には誤解やすれ違いが生まれやすく、ネット上のトラブルやいじめといった問題にもつながっています。

学生たちは、そんな現代的な課題を、NHK教育番組『新・ざわざわ森のがんこちゃん』のエピソード「でんごんツバン」の映像を使って授業を作りました。直接会って話すことや相手を思いやる言葉づかいの大切さを学ぶことがねらいです。
導入では、伝言ゲームを児童役の学生にやってもらいました。自分が伝えたい事柄は、思った通りには相手に伝わっていないという体験をへてから、メインの教材となる物語を視聴しました。
導入で行われた伝言ゲーム 大学生でも難しかった様子
3年生は机間指導もお手の物です
物語の概要「でんごんツバン」
教師役の学生たちは、登場人物のイラストとふきだしを用いてストーリーの問題点を分かりやすく整理しました。どのように伝言したら誤解が生じなかったのか、児童たちに考えさせます。授業のまとめでは、「でんごんツバンに似たようなものがありますよね。どんなものがありますか?」と問いかけ、LINEやInstagram、ゲームのチャット、手紙などを児童に挙げさせます。そうした言葉の伝達方法を使うときに気を付けることを児童に考えさせる展開でした。
土田教授は視覚的にとても分かりやすい授業構成を評価しました。「伝言ゲーム活動とストーリーをうまく結びつける工夫があると、より効果的になります。ストーリーの理解を深めるために、場面の状況を児童に一つ一つ確認していくことが大切です。また、大事なことは、教師が説明するのではなく、児童自身の言葉で考えを表現させるように」とアドバイスしました。
食べて良い生き物と食べてはいけない生き物の違いを考える
2つ目のグループは、まさに答えのない問いに挑戦しました。「『食べていい』『食べちゃいけない』生き物の違い」がテーマです。豚、牛、鶏、馬、鯨、イナゴ、カエル、犬のパネルを用意し、児童役の学生に食べていいもの、食べてはいけないものに分別させ、なぜそのように考えるのかを議論してもらいました。議論中には教師役が巡回し、議論を発展させる工夫を見せました。
①食べることが当たり前の動物から、海外からは議論を呼ぶ動物、ペットとして飼われる動物など様々
②それぞれの生き物を食べることについて児童に聞く
③グループごとに食べて良い動物と食べちゃいけない動物についての価値観を話し合う
④話し合われた結果をグループごとに発表してもらう
土田教授からは、授業構成について指摘がありました。「なぜ生き物を食べるのか、生きるために必要だから命をいただくという根本的なことに十分触れられませんでした。命の大切さと文化の多様性、2つとも重要なテーマですが、2つを授業のねらいとしてしまったため、どっちつかずの授業になってしまいました」
特に道徳科で重要となる「問い返し」
ここで、土田教授から道徳科指導の核心となる貴重なアドバイスがありました。「問い返し」は、単なる質問とは異なる高度な指導技術です。「問いかけ」は教科書に書かれている内容を確認するもので、子どもの思考を促すものではありません。一方で、児童の回答を一旦受け止め、「では、もし○○だったらどうだろう?」「なぜそう考えたのか?」と、問い返すことでより深く考えさせることができます。教師が正解を教えるのではなく、児童自らが価値観について深く思考し、自分なりの答えを見つけていく過程を支援する――そこから生まれる新たな気付きこそが道徳科で得られる重要な学びなのです。
毎回提出するリフレクションシートには土田先生のコメントがびっしり!
授業の仕方についてアドバイスする土田教授